2025.09.10
個人でも要注意!外国の売り主から不動産を買うときの税金ルール
日本の不動産市場は、国内外の投資家から高い注目を集めています。特に、資産形成や投資目的で、外国法人や非居住者から日本の不動産を購入するケース増えています。
しかし、そうした取引を行う際に、買主である個人が意外と知らない落とし穴があります。それは、「源泉徴収」の 義務です。
1.なぜ源泉徴収が必要なの?
所得税法では、非居住者(日本国内に住所も1年以上居所もない個人)や外国法人に対して、国内において国内源泉所得(日本国内で生じた所得)を支払う者は、その支払いの際に一定の税率で所得税を源泉徴収し、国に納付する義務があると定められています。
日本の不動産の譲渡によって生じる所得は、国内源泉所得に該当します。そのため、売主が外国法人や非居住者である場合、買主である個人は、原則として、不動産の購入代金から所得税を源泉徴収し、税務署に納付しなければなりません。
2.源泉徴収の対象となるのは?
対象となるのは、以下のいずれかに該当する売主から不動産を購入する場合です。
・ 非居住者である個人
・ 外国法人
ご自身が購入を検討されている不動産の売主が非居住者や外国法人であるか、仲介業者に必ず確認しましょう。契約書の住所が日本国内であっても、実態は海外に居住している可能性もあるため、念のため売主の居住地や法人所在地を示す書類の確認も有効です。
3.源泉徴収が不要となるケース(個人の買主の場合)
個人の買主が以下の2つの条件を両方満たす場合、源泉徴収の義務が免除されます。
- 購入する不動産が自己または親族の居住用であること
- その対価の額が1億円以下であること
【ポイント】譲渡対価の判定と源泉徴収額の計算について
・1億円以下の判定は?譲渡対価の額が1億円以下かどうかの判定は、原則として消費税を含んだ金額で行います。
・源泉徴収は消費税も対象? 源泉徴収は、支払われる対価の全額(消費税を含む)が対象です。ただし、譲渡対価と消費税額が契約書などで明確に区分されている場合は、消費税抜きの譲渡対価のみを対象とすることも可能です。
・手付金・中間金も対象? 源泉徴収は、代金を手付金、中間金、残金に分けて支払う場合、それぞれの支払いの都度行う必要があります。
つまり、投資目的や事業用として不動産を購入する場合、たとえ購入対価が1億円以下であっても、源泉徴収義務は原則として発生します。
4.源泉徴収を怠るとどうなるの?
源泉徴収の義務があるにもかかわらず、これを怠った場合、税務署から後日、源泉徴収すべきであった税額を追徴される可能性があります。さらに、延滞税や不納付加算税といったペナルティも課されることがあります。
5.具体的な手続きはどうすればいいの?
源泉徴収が必要な場合、個人が行う手続きは主に以下の通りです。
- 源泉徴収額の計算:売買代金の10.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%)
- 源泉徴収の実行:売主への支払い時に、税額を差し引いて支払う
- 納付:支払った月の翌月10日までに、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」を使用して、所轄の税務署に納付
【注意】支払調書の提出義務について
源泉徴収義務がある場合でも、「非居住者等に支払われる不動産の譲受けの対価の支払調書」を作成・提出する義務は、一般の個人にはありません。この義務を負うのは、法人や不動産業を営む個人など、特定の事業者に限定されています。
まとめ
外国法人や非居住者から日本の不動産を購入する際は、売買代金の支払い義務だけでなく、「源泉徴収」というもう一つの義務が発生する可能性があることを理解しておくことが非常に重要です。
不動産取引は高額な取引であり、予期せぬ税金の負担は大きな痛手となります。不動産の購入を検討されている方は、税理士等の専門家に早めに相談すると安心です。取引の相手方や税務上の義務について十分に確認するようにしましょう。
(Y.M.)
(注)
本稿は、執筆者個人の見解に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません
以 上
【この記事は「イノベーションズアイ」コラムに掲載しています】
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