2025.08.04
外国企業が日本市場に参入する際の消費税インボイス制度
日本市場参入を考える外国企業:消費税の「インボイス番号」は必要か?
日本の市場は、その経済規模、高い購買力、安定した法制度、そして先進的なデジタルインフラにより、多くの外国企業にとって非常に魅力的な進出先です。しかし、そんな魅力的な市場への参入を検討する上で、「消費税のインボイス番号(適格請求書発行事業者登録番号)は、取得すべきか?」という疑問に直面することがあります。
このインボイス番号は、日本の消費税制度において重要な役割を果たします。そして、その取得は単なる税務上の形式に留まらず、ビジネス上の重要な判断となります。結論から言えば、原則としてインボイス番号の取得は任意です。ただし、外国企業のビジネスモデルによっては、取得を強く推奨される場合があります。
インボイス番号が必要になるのはどんな時?
インボイス番号の取得は原則として任意ですが、特に日本の消費税課税事業者との取引がある場合には、実質的に必要となるケースが増えています。
最も重要なポイントは、日本の事業者(法人や個人事業主など)が外国企業から商品やサービスを受け取る場合、支払いに含まれる消費税を「仕入税額控除」したいと考えることがあります。「仕入税額控除」とは、事業者が仕入れにかかった消費税を、売上にかかった消費税から差し引くことができる制度です。この控除を受けるには、原則として、外国企業が発行する請求書が「インボイス(適格請求書)」であることが条件となります。
このため、外国企業がインボイス番号を取得していなければ、取引先にとって消費税の仕入税額控除ができず、コスト増につながります。このため、日本の取引先は、外国企業にインボイス番号の取得を求めたり、あるいは取引そのものを見直したりするリスクもあります。
この点は、通常の物品販売や役務提供だけでなく、例えば電気通信役務提供(クラウドサービス、SaaS、オンラインプラットフォーム利用料、デジタルコンテンツ配信など)においても同様に重要です。日本の企業顧客にこれらのサービスを提供している場合は、特にインボイスの必要性が高まる可能性があります。
インボイス番号が不要なケース
以下のような場合は、インボイス番号の取得は不要と考えられます。
- 日本の免税事業者や消費者のみを顧客とする場合:
これらの顧客は消費税の仕入税額控除を行う必要がないため、インボイスは必要ありません。例えば、日本の個人消費者向けのアプリやデジタルコンテンツの販売(消費者向け電気通信利用役務の提供)がメインであれば、基本的にインボイス番号は不要です。ただし、サービスを提供する外国企業は、消費税の申告納税義務があります。
(プラットフォーム課税の場合)
国税庁長官の指定を受けたプラットフォーム事業者を介して、消費者向け電気通信利用役務の提供し、その対価を受け取る場合、外国企業側でインボイス番号を取得する必要は原則としてありません。これは、そのプラットフォーム事業者が、あたかも自らがサービスを提供したかのように消費税の申告・納税を行うためです。
- 電気通信利用役務の提供における事業者向けサービスの場合(リバースチャージ方式):
外国企業が行う事業者向け電気通信利用役務の提供については、サービスを受けた日本の事業者がリバースチャージ方式により消費税を申告納税するため、外国企業がインボイス番号を取得して適格請求書を発行する必要は原則としてありません。これは、日本の事業者が消費税の納税義務を負うリバースチャージ方式が適用されるためです。
取得判断のポイント
インボイス番号を取得するかどうかの判断は、外国企業の日本における主要な取引先が誰であるかに集約されます。
- 日本の課税事業者(法人、個人事業主など)とのBtoB取引がメインの場合:
インボイス番号の取得が推奨されます。これにより、日本の取引先が消費税の仕入税額控除を受けられ、円滑な取引関係を築きやすくなります。
なお、外国企業がクラウドサービスやSaaSなどの「事業者向け電気通信利用役務の提供」を行っている場合は、リバースチャージ方式が適用され、国内の課税事業者が消費税を申告・納税するため、外国企業側でインボイスを発行する必要は原則としてありません。ただし、そのサービスがリバースチャージ方式の対象となることを示す取引の表示義務が外国企業側にはあります。また、日本の取引先が適切に仕入税額控除を受けるためには、外国企業からの取引情報に基づいた適切な帳簿記載が必要です。一方で、「消費者向け電気通信利用役務の提供」を受けた事業者が仕入税額控除を受けたい場合、外国企業はインボイスの発行が必要になります。
- 日本の消費者や免税事業者とのBtoC取引がメインの場合:
現時点では、インボイス番号の取得は不要なケースが多いでしょう。
インボイス番号の取得は、単なる税務上の形式ではなく、日本の企業顧客との取引継続性や競争力を左右する重要な選択肢といえます。外国企業が自社のビジネスモデル、顧客層、日本の取引制度との相性を踏まえたうえで、慎重な判断を行うことをおすすめします。
(Y.M.)
以 上
【この記事は「イノベーションズアイ」コラムに掲載しています】
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