2025.09.29
日本の組織再編が招く海外子会社所在地国での間接譲渡課税リスク
日本の企業グループで組織再編を行う際、国内の税務メリットである「税制適格組織再編」に注目が集まりがちです。しかし、もしグループ内に海外子会社がある場合、日本の適格組織再編が、海外子会社の所在地国で予期せぬ課税リスクを招く可能性があります。
1.日本の適格組織再編と海外子会社の株主変更
2.海外で課税リスクが生じる理由
3.課税リスクの見落とされがちな注意点
4.国際税務の専門家との事前協議が不可欠
1.日本の適格組織再編と海外子会社の株主変更
日本の法人税法上、一定の要件を満たす合併などを「適格組織再編」と呼び、資産・負債を簿価で引き継ぐことで、国内では原則として課税を繰り延べることができます。
例えば、親会社A社が子会社B社を吸収合併する場合、B社が海外に子会社C社を保有していれば、合併後はC社の株主はA社に変わります。この一連の流れは国内ではスムーズに進みますが、海外子会社C社の所在地国から見ると、C社の株主(支配者)が変更されることになります。この「株主変更」が、海外における課税リスクの引き金となるのです。
2.海外で課税リスクが生じる理由
海外では、国際的な租税回避を防ぐため、実質的な支配権の移転を通じて自国内資産の譲渡益を捕捉する『間接譲渡課税』の制度を採用している国もあります。これは、合併などにより株主変更があった場合、実質的に資産の譲渡があったとみなして課税する仕組みです。
日本の合併は、形式的には国内の取引ですが、海外子会社の所在地国から見れば、被合併法人が保有していた海外子会社の株式が、合併を通じて吸収合併法人に「譲渡された」とみなされる可能性があります。この取引がその国の間接譲渡課税の要件を満たす場合、みなし譲渡益に対して課税される可能性があります。
3.課税リスクの見落とされがちな注意点
「海外で税金を払うなら、日本で外国税額控除を適用すればよいのでは?」と考えるかもしれません。しかし、これが大きな落とし穴です。
外国税額控除は、日本と海外の両方で同じ所得に課税された場合に、二重課税を排除するための制度です。適格組織再編の場合、日本では譲渡益が繰り延べられ、課税所得は発生しません。つまり、日本の税法上は「国外所得がゼロ」とみなされます。たとえ海外で間接譲渡にかかる税金を納付したとしても、日本の税法上、外国税額控除を計算するための「国外所得」がないため、控除可能な金額がゼロとなります。結果として、海外で支払った税金は日本の税額から控除できず、思わぬ税負担につながる可能性があります。
さらに、日本の法人税法では、海外で支払った税金について、同一事業年度内において外国税額控除と損金算入のどちらか一方をすべての外国法人税に対して一律に適用する必要があります。ある外国税は外国税額控除を使い、別の外国税は損金算入にするといった「選択的な適用」は認められていないため注意が必要です。
4.国際税務の専門家との事前協議が不可欠
日本の組織再編は、もはや国内の税務だけで完結するものではありません。グローバルに展開する企業にとって、日本の適格組織再編が海外で「間接的な資産譲渡」とみなされ、予期せぬ課税につながる可能性を認識しておくことが、税務リスク管理の上では非常に重要です。
組織再編の税務は、個々の企業が置かれた状況や国の組み合わせによって複雑性が増し、その個別性が高いものです。また、租税回避目的で行われた行為とみなされた場合、税務当局からその行為計算を否認され、追加課税を受けるリスクも考慮しなければなりません。
海外での予期せぬ課税や、外国税額控除が使えないといったリスクを回避するためには、組織再編を実行する前に、海外子会社が所在する国や地域の税務に精通した専門家と十分に協議し、具体的なリスクを事前に洗い出すことが不可欠です。
(Y.M.)
(注)
本稿は、執筆者個人の見解に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません
以 上
【この記事は「イノベーションズアイ」コラムに掲載しています】
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